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特別編 01情報漏洩・セキュリティ 第3話

情報漏洩は、本当にAIのせいなのか?

情報漏洩は本当に増えているのか。AIは何を変えたのか。報告件数の読み方、侵入されたあとの被害、攻める側と守る側の仕事から考えました。

読む目安 約12分

はじめに|情報漏洩のニュースが増えた理由

最近、企業から何百万人もの個人情報が流出したというニュースを、よく目にするようになりました。前回は、盗まれた個人情報がどこへ行き、AIによって犯罪の手口がどう変わってきたのかを見てきました。

でも、ここで一つ疑問が残ります。

そもそも情報漏洩は、本当に増えているのでしょうか。そして、それはAIが原因なのでしょうか。

今回は少し視点を変えて、情報漏洩が起きる仕組みと、それを防ごうとする人たちの仕事を見ていきます。調べていくと、意外なことが分かってきました。

情報漏洩は本当に増えたのか?

まず、日本の統計を見てみましょう。個人情報保護委員会によると、民間事業者等からの個人データ漏洩等の報告処理件数は、2022年度に7,685件、2024年度には19,056件でした。約2.5倍です。ところが2025年度は17,139件と、前年より減っています。

では、2022年から2024年にかけて、攻撃する人が突然2.5倍に増えたのでしょうか。

実は、数字を見る前に知っておきたい出来事があります。2022年4月、一定の個人情報漏洩について、企業による行政への報告が義務化されたのです。

それまでも漏洩事故は起きていました。しかし、新しい制度によって、行政へ報告される範囲や仕組みが変わりました。つまり、事故が増えた可能性だけでなく、以前より多くの事案が数字に現れるようになった可能性も考えなければなりません。

では、報告されているのは、どんな事案なのでしょうか。委員会の年次報告によると、多いのは病院や薬局で書類を別の人に渡してしまう誤交付、クレジットカードなどの誤送付、そして不正アクセスなどです。2025年度は、報告の6割以上が病歴などの「要配慮個人情報」を含む事案でした。こうした情報は、1人分の漏洩でも報告の対象になります。

また、2024年度の件数には、あるシステム会社が不正アクセスを受け、そのシステムを利用していた多くの事業者がそれぞれ報告した2,745件も含まれています。一つの事故が、何千件もの報告として数字に現れることがあるわけです。

今回の報告件数の増加には、少なくとも4つの説明が考えられます。

よく話題になる説明

攻撃が増えた?

攻撃は以前から大量。報告数とは別の数字

AIが原因?

義務化はChatGPT公開より前

見落とされやすい説明

報告義務化・見える化

2022年4月から。「おそれ」の段階でも報告

裏口が増えた

2020年頃からテレワークで入口が増加

どれか一つだけが正解ではない。見落とされやすい説明にも目を向ける

※カードの大きさは、原因の割合を示すものではありません。

図:報告件数が増えた理由、4つの説明
  • AIが原因だった:報告の義務化は2022年4月で、ChatGPTの公開(同年11月)より前に始まっています。また、報告の多い原因には、書類の誤交付や誤送付のように、AIとは関係のない人のミスも含まれます。AIの影響がまったくないとは言えませんが、件数の増加を主に生成AIで説明するのは難しそうです。
  • 攻撃が増えた:攻撃活動は以前から大量に存在し、その規模や手口も変化しています。ただし、行政への報告数と攻撃回数は別の数字です。
  • 攻撃される入口が増えた:2020年頃からテレワークが広がり、会社の外から社内へ接続する仕組みが重要になりました。管理されていない機器や更新されていないシステムが、攻撃の入口になることがあります。
  • 報告する仕組みが変わった:2022年からの報告義務化は、数字を読み解くうえで重要な前提です。実際に情報が流出したと確認されていなくても、漏洩のおそれがある事案が報告される場合もあります。

この4つは、どれか一つだけが正解という話ではありません。ただ、2022年からの数字を見て「AIによって情報漏洩が急増した」と結論づけるのは、少し早そうです。

では、なぜ最近のニュースでは、これほど大規模な被害が目立つのでしょうか。

入口の鍵と、巨大な金庫

ここで、企業のシステムを一軒の家に例えてみましょう。2020年頃からのテレワーク普及は、家の外から中へ入れる裏口を増やすことに似ています。会社の外から仕事をするために、VPNやリモートデスクトップなどの仕組みが使われてきました。

問題は、その入口が適切に管理されていなかった場合です。裏口の鍵が初期設定のままだったり、古くなった鍵を交換していなかったりする。鍵をかけていても、すでに知られている弱点が修正されていなければ、そこから侵入されることがあります。

しかし、今の大規模漏洩を考えるうえでは、もう一つ大切な問題があります。

裏口から入られたあと、どこまで自由に移動できてしまうのか。

家の引き出しに家族の住所録が入っているとします。それを盗まれれば、家族や知人の情報が漏れてしまうかもしれません。一方、その家の奥に何百万人分もの顧客情報が入った巨大な金庫があったらどうでしょう。そこまでたどり着かれると、一度の侵入で非常に大きな被害につながることがあります。

侵入

裏口

引き出し住所録・数人分
金庫何百万人分

裏口から入ったロボットが、部屋を通って奥の金庫へ向かう。部屋の境目ごとに、ここで止められるかが分かれ目になる。

?=ここで止められるか

入口を守るだけでなく、入られても奥まで行かせない

図:入られたあと、どこまで行けるか

東京商工リサーチの調査では、上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏洩・紛失事故は、2024年の189件から2025年は180件へ減りました。ところが、漏洩・紛失した可能性のある個人情報は、約1,587万人分から約3,064万人分へ増えています。2025年に最も大きかった事故は外部からの不正アクセスによるもので、その1件だけで約729万人分でした。

事故の件数が減っても、影響を受ける可能性のある情報の規模は、少数の大きな事故によって大きく変わることがあります。

つまり、入口の数や弱さだけでなく、侵入されたあとの被害をどれだけ小さくできるかが重要なのです。

ドアノブは、毎日何回回されている?

では、攻撃する側は何をしているのでしょうか。ここで登場するのが、24時間365日、休まずに動くロボットです。

このロボットは街中を歩き回り、家のドアノブを片っ端からガチャガチャと回していきます。鍵がかかっていれば次の家へ。弱そうな窓があれば調べる。開いている入口があれば、そこをさらに詳しく調べる。実際のインターネットでも、こうした探索や不正な接続の試みが自動的に繰り返されています。

どのくらいの数なのでしょうか。

セキュリティ企業MOTEXが2025年1月に行った実験では、国内のクラウド上に「ハニーポット」と呼ばれる観測用のシステムを公開したところ、わずか12時間で約1万1,000件の攻撃通信が観測されました。ハニーポットとは、攻撃の様子を調べるために、あえて攻撃を受けるように用意したおとりの仕組みです。一つの観測環境でも、これだけの通信が記録されるのです。

ただし、ここで数えているのは攻撃通信であって、侵入に成功した回数でも、個人情報を盗まれた回数でもありません。この違いが重要です。

ドアノブを回された回数と、家に侵入された回数。そして、実際に何かを盗まれた回数は、それぞれ違います。さらに、企業が行政へ報告した件数は、人のミスによる事案も含む、また別の数字です。ニュースで見る情報漏洩の数字は、膨大な攻撃活動のすべてを数えたものではないのです。

  1. ドアノブを回された

    攻撃通信の数例:観測環境1つで、12時間に約1.1万件

  2. 家に侵入された

    侵入に成功した回数

  3. 何かを盗まれた

    情報が持ち出された回数

  4. 行政へ報告された

    人のミスによる事案も含む

ニュースで見る数字は、攻撃のすべてを数えたものではない

図:4つの数字は、それぞれ別物

侵入したロボットは、何をするのか

もしロボットが家の中へ侵入したら、何が起こるでしょうか。たとえば、引き出しを開けて住所録を盗む。大きな金庫を開けて、そこに入っていた大量の個人情報を持ち出す。

あるいは、家の住人のふりをして、知人へ手紙やメールを送ることも考えられます。なお、なりすましには必ずしも家への侵入が必要とは限りません。メールの仕組みだけを悪用される場合もあります。

もう一つ、ニュースでよく聞くのが「ランサムウェア」です。これは、家に侵入して、大事なものに勝手に鍵をかけてしまうような攻撃です。本来は自分のものなのに、開けることも使うこともできない。そして犯人は「元に戻してほしければお金を払え」と要求してきます。

企業では、データやシステムを使えなくなることで、仕事そのものが止まってしまう場合があります。さらに、先に情報を盗み出して「お金を払わなければ公開する」と脅す手口もあります。

ここまで見ると、セキュリティは単に家の鍵を閉めれば終わり、という話ではないことが分かってきます。入口を守ること。中へ入られても、大切な場所へ近づけないようにすること。そして、被害が起きたときに早く気づき、広がらないようにすること。守る側には、いくつもの仕事があります。

では、ここにAIが加わると、何が変わるのでしょうか。

AIで変わったのは、ロボットの仕事

先ほど、24時間365日動き続けるロボットが登場しました。ただし、こうした自動化はAIが登場する前から存在しています。以前からコンピュータのプログラムは、大量の機器を調べたり、決められた条件で不審な通信を検出したりしていました。

AIが変え始めているのは、そのロボットに任せられる仕事の種類です。これまで人間が調べて判断していた情報を整理したり、状況に応じて次に何を調べるかを提案したり、複数の作業を分担したりできるようになってきました。

これは攻撃する側にも利用されます。前回紹介したように、従来なら複数の人が分担していたような攻撃の作業を、AIが支援していた事例も報告されています。

しかし、AIを使えるのは攻撃する側だけではありません。 家を守る警備員にも、同じようにロボットを使う方法があるのです。

たとえば、膨大な警報の中から本当に危険そうなものを探す。不審なメールを分析する。弱い設定が残っていないか調べる。侵入の疑いがあれば、関係する記録を集め、調査員へ知らせる。

Microsoftは、社員から報告された怪しいメールをAIが調べ、本物の攻撃か誤報かを振り分ける機能を提供しています。Google Cloudも、複数のAIが役割を分けて調査を進める設計例を公開しています。

以前からの自動化

決められた条件で、大量に調べる

AIで任せられる仕事が増えた

情報を整理する/次に調べることを提案する/作業を分担する

同じ道具を、両方が使える

攻める側のロボット

  • 弱い入口を探し続ける
  • 攻撃の作業を分担する

守る側のロボット

  • 大量の警報から危険そうなものを選ぶ
  • 怪しいメールを調べる
  • 記録を集めて、人に知らせる
図:AIで変わったのは、ロボットの仕事

ただし、AIがすべての危険を見つけ、何でも自動修理してくれるわけではありません。判断を間違えることもありますし、重要な対処には人間の確認が必要になることもあります。それでも、専門家がAIを何人もの補助員のように使えるようになれば、一人で処理できる仕事の範囲は広がります。

守る側の方が、仕事が多い

ここで、もう一度あの家を思い浮かべてみてください。攻撃する側のロボットは、たくさんの家から弱い入口を探し続けます。一方、守る側は、ドアの鍵だけでなく、窓、裏口、金庫、警報装置まで確認しなければなりません。壊れたところが見つかれば、直す仕事もあります。

しかも、攻撃を受ける前に点検できることもあれば、攻撃を受けて初めて分かることもあります。たとえば「ゼロデイ」と呼ばれる問題があります。これは、まだ知られていないソフトウェアなどの弱点が悪用される問題です。家に例えるなら、作った人も住人も気づいていなかった窓の弱点を、攻撃する側が先に見つけてしまうようなものです。

守る側が先に弱点を発見して直せれば、危険を減らせます。しかし攻撃する側が先に悪用すれば、対策が間に合わないこともあります。こうなると、弱点を探す速さだけでなく、発見した問題を修正する速さも重要になります。

攻める側弱い所を1つ

屋根裏:誰も知らない弱点(ゼロデイ)

  • 裏口
  • 窓
  • 窓
  • 扉
  • 金庫
  • 警報
守る側全部を点検

見つける速さだけでなく、直す速さも大切

図:守る側の方が、仕事が多い

守る側には、広い範囲を継続して守る難しさがあります。だからこそ、AIによって見回りや分析の仕事を効率化する意味があるのです。ただ、それでも防御を完全にするのは簡単ではありません。

私たちは、どんな社会を目指すべきなのか?

ここまで、情報漏洩の統計から始まり、攻撃する側と守る側の仕事を見てきました。分かってきたのは、情報漏洩の問題はAIが登場する前から存在していて、AIはその攻撃と防御の両方を変え始めている、ということです。

では、私たちはどんな社会を目指すべきなのでしょうか。

私は、情報漏洩を完全にゼロにできないことと、企業の責任を曖昧にすることは別だと思います。預かった個人情報を適切に管理し、危険が見つかれば対処する。被害が起きたら早く知らせて広がりを抑え、同じ問題を繰り返さないよう改善する。こうした責任は、AIが進化してもなくなりません。

具体的な身の守り方は、第1話「止まらない情報漏洩から自分を守るために、今できること」と第2話「盗まれた個人情報は、どこへ行くのか?」で紹介してきました。最後に考えたいのは、何か問題が起きたときの、私たちの向き合い方です。

失敗を責められると思えば、人は問題を隠したくなるかもしれません。それは家族や友人の間でも、会社でも同じです。大切なのは、早く知らせ、原因を調べ、一緒に改善すること。もちろん、不正を行った人や管理を怠った組織の責任まで曖昧にするわけではありません。

責めない。共有しあう。一緒に考える。

攻撃する側の道具がAIで進化しているなら、守る側も知っていることを持ち寄ればいい。完璧に防げる社会は約束できなくても、問題が起きたときに早く気づき、一緒に対処できる社会なら、目指していけるのではないでしょうか。

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このシリーズの、ほかの話

具体的な身の守り方は、第1話と第2話でまとめています。

参考資料

※2026年10月14日確認時点。報告件数、公表された事故件数、攻撃通信の数は、それぞれ数えている対象が異なります。件数を被害人数と読み替えないでください。

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